道徳教育論-理論と実践-(15)
5、中学校学習指導要領(平成29年告示) 特別な教科 道徳
指導計画の作成と内容の取扱いについて
横浜市立大学非常勤講師 鈴木 豊
「道徳教育」に関する「指導計画」には大きく分類すると、「全体計画」と「年間指導計画と別様」、「学級指導計画」の3種類がある。
特別な教科道徳編 第4章 指導計画の作成と内容の取扱い 第1節 指導計画作成上の配慮事項には、次のように書かれている。
各学校においては、道徳教育の全体計画に基づき、各教科、総合的な学習の時間及び特別活動との関連を考慮しながら、道徳科の年間指導計画を作成するものとする。
なお、作成に当たっては、第2に示す内容項目について、各学年において全て取り上げることとする。その際、生徒や学校の実態に応じ、3学年間を見通した重点的な指導や内容項目間の関連を密にした指導、一つの内容項目を複数の時間で扱う指導を取り入れるなどの工夫を行うものとする。とある。
上記には、道徳教育の指導計画の作成順や年間計画の作成上の留意点等が示されている。
各学校の道徳指導計画の核となるものが、「道徳教育全体計画(添付資料参照)」である。
道徳教育全体計画とは、学校活動全体で行われている道徳教育のそれぞれの取組目標や
相互の関連等を表した構造図と、実施時期や内容一覧を示した別様がある。
道徳教育全体計画構造図は、いわば、各学校における「道徳教育」を中心においた学期全体における教育活動の関連を表したマンダラのようなものである。
学校における道徳教育の目標や、学校全体における教育活動が、どのように関連してい
るか、学校教育目標を達成するために、学校教育全体で行われている道徳教育、個々の目標や目標を達成するための手立てを示した系統図である。
各学校の道徳教育全体計画を作成する上で、「各学校の教育目標」が中心となる訳であるが、各学校には、それぞれ独自の学校教育目標が設定されている。
各学校は、学校教育目標を達成することを目指して教育活動が展開される。
各学校の教育目標は、全職員の協働の下に作成されるのであるが、各学校の教育目標を作成する上で、踏まえなければならない教育理念がある。
それが全体計画構造図において、学校の教育目標の左右に示されている事柄である。
一つは、教育関係法規に示されている教育理念である。
そこには憲法、教育基本法といった上位に位置する法律の理念を基に作成され、学習指導要領に示されている教育理念や各教育委員会が掲げている教育理念等も含まれる。
二つ目は、各学校生徒の実態や教職員の生徒に関わる願い、そして保護者の生徒に関わる願いである。
全体計画は、作成する上で事前にそれらを調査し、それらを踏まえて作成されることが基本となるのである。
各学校の生徒の道徳性に関わる実態を踏まえて、各学校における教育目標を達成するための「道徳教育の目標(重点目標)」が道徳指導部を中心に全職員協働の基に作成さ、職員会議等で決定される。
次に道徳教育目標を達成するための各学年における、生徒の道徳性に関わる実態を踏まえて各学年の道徳教育目標(重点目標)が、各学年職員の協働、議論の上で作成される。
各学年の道徳教育目標(重点目標)を達成するための道徳時間の指導の方針(目標)が道徳指導部によって立てられる。(添付資料参照)
「道徳時間」の役割は、学校で行われる全ての教育活動における道徳教育を補充・深化・統合する要の役割である。
したがって、全体計画(構造図)には、学校の教育活動全ての道徳教育の目標が、道徳時間の下に系統的に示されているのである。
各教科で行われる道徳教育と、学年や学級や家庭との連携、地域との連携、小学校との連携、関係機関との連携、環境の整備充実等、教育活動のすべてが道徳教育であり、全体で行われる道徳教育を補充・深化・統合する要となるのが「道徳の時間」である。
学習指導要領には、全体計画を踏まえて「1 指導計画作成の方針と推進体制の確立」で、次のように書かれている。
道徳科の指導は、学校の道徳教育の目標を達成するために行うものであることか
ら、学校においては、校長が道徳教育の方針を明確にし、全教師に周知するとともに、指導力を発揮して、道徳教育の推進を主に担当する教師(下「道徳教育推進教師」という。
を中心にした指導体制を整え、道徳教育の全体計画に基づく道徳科の年間指導計画を、全教師の共通認識の下に作成する必要がある。
と、書かれている。
各学校においては、道徳教育の全体計画に基づき、各教科、総合的な学習の時間及び特別
活動との関連を考慮しながら、道徳科の年間指導計画を作成するものとする。という文章
が学習指導要領にあったが、「道徳教育の全体計画に基づき、各教科、総合的な学習の時
間及び特別活動との関連を考慮しながら、道徳科の年間指導計画を作成するものとする」
という文章は、道徳教育の全体計画には「別様」と呼ばれる指導計画書(添付資料参照)が
ある。「別様」と呼ばれる教育計画が、各教科や領域における道徳教育の内容を、年間の
教育活動の一覧として書き出したものである。
別様に書かれている道徳教育の内容と、道徳科の授業内容との関連付けを図りながら道
徳科の年間指導計画を作成するという意味である。
年間指導計画と一般に呼ばれている教育計画には、主題配列表と、道徳授業の指導略案等が含まれる。
これの年間指導計画の作成は、道徳教育推進教師が校長の方針のもと、道徳教育担当職員のリーダーとして、全職員の協働の基に作成することが基本である。
道徳教育推進教師の役割は、校内の道徳教育を活性化させ、道徳担当組織の代表者として中心的に道徳計画の作成や、PDCAサイクルによる道徳計画の見直しと改善を行う役割を担っている。道徳教育に関わる取り組みの核として推進する役割である。
全教職員が道徳教育の共通認識を持てるよう、職員研修会や職員会議、学年会議等の場を利用し共通認識を図ることや、道徳教育の職員研修や研究授業等の企画立案、会の運営や指導等、道徳教育に関わる全ての活動を担う担当者として、新たに全小中学校に道徳教育推進教師という役職が設けられた。
年間指導計画(主題配列表)とは、学年ごとに各道徳時間の主題を構成し、全授業における主題を年間にわたって適切に位置付け、配列し、学習指導過程(指導略案)等を示すなど、道徳授業を円滑に行うことができるように示した教育計画である。(添付資料参照)
道徳科授業における主題とは道徳授業を行うにあたり、何をねらいとして、どのような教材を用いて、どのように教材を活用しながら、どのように展開していくのか、等の授業を行う上での「指導のまとまり」をさす用語であるが、道徳授業における「ねらい」と「教材」を合わせた用語として、一般的には「主題」という用語が用いられている。
また、主題配列表(添付資料参照)とは、年間で行なわれる各道徳授業における主題名と主題(ねらいと教材)を配列した教育計画であるが、主題配列表をもって年間指導計画の全てであると誤解している教員が多い。
主題とは「ねらいと教材」を合わせたものであるが、本来は授業を構想する上でのまと
まりを表す用語である。「主題構成」という用語は、年間にわたって、どの主題を、どの時期に行うか等、主題の配列を構成することである。
「主題構想」という用語も使われるが、「主題構想」とは、年間指導計画に位置付けられている主題を、学級の実態に即して、どのように指導すればよいかを考えることであり、最終的に指導案として確定される。
「主題を設定する」とは、「ねらいと教材を決めること」であり、それが「主題設定」という用語である。「道徳学習指導案」においては、必ず「主題設定の理由」を書くことが、学習指導要領の指導案の内容に書かれている。
年間指導計画には、次に上げるような意義がある、としている。
○3学年間を見通した計画的、発展的な指導を可能にする。
(重点的な指導や内容項目の関連を図った指導を可能にする。)
○個々の学級において、年間指導計画に示されている指導略案や他の教育活動との関連等、道徳指導案を具体的に立案する際のよりどころとなる。
○年間指導計画を踏まえて授業前に指導方法等を検討したり、情報を交換したり、授業を実際に参観し合ったり、研修を行う際の手掛かりとなる。と書かれている。
年間指導計画とは、道徳授業を年間にわたって円滑に実施するために必要な指導計画すべて包含した用語であり、定型や種類が決まっている訳ではない。
次に、「年間指導計画の内容」について、
学習指導要領道徳編に、次のように書かれている。
年間指導計画は、各学校において道徳科の授業を計画的、発展的に行うための指針となるものであり、各学校が創意工夫をして作成されるものであるが、上記の意義に基づいて、特に次の内容を明記しておくことが必要である。
ア 各学年の基本方針
全体計画に示されている道徳教育の目標に基づき、道徳科における指導に
ついて学年ごとの基本方針を具体的に示す。
イ 各学年の年間にわたる指導の概要
具備することが求められる事項としては、次のものがある。
(ア)指導の時期
学年又は学級ごとの実施予定の時期を記載する。
(イ)主題名
ねらいと教材で構成した主題を、授業の内容が概観できるように端的に表したものを記述する。
(ウ)ねらい
道徳科の内容項目を基に、ねらいとする道徳的価値や道徳性の様相を端的に表したものを記述する。
(エ)教材
教科用図書やその他、授業において用いる副読本等の中から、指導で用いる教材の題名を記述する。なお、出典等を併記する。
(オ)主題構成の理由
ねらいを達成するために教材を選定した理由を簡略に示す。
(カ)学習指導過程と指導の方法
ねらいを踏まえて、教材をどのように活用し、どのような学習指導過程や指導方法で学習を進めるのかについて簡潔に示す。
(キ)他の教育活動等における道徳教育との関連
他の教育活動において授業で取り上げる道徳的価値に関わってどのような指導が行われるのか、日常の学級経営においてどのような配慮がなされるのかなどを示す。
(ク)その他
例えば、校長や教頭などの参加、他の教師の協力的な指導の計画、保護者や地域の人々の参加・協力の計画、複数の時間で取り上げる内容項目の場合は各時間の相互の指導の関連などの構想、年間指導計画の改善に関わる事項を記述する備考欄などを示すことが考えられる。
なお、指導の時期、主題名、ねらい及び教材を一覧にした配列表だけでは年間指導計画としては機能しにくい。
そのような一覧表を示す場合においても、学習指導過程等を含むものなど各時間の指導の概要が分かるようなものを加えることが求められる。
上記のことが書かれている。従前、多くの中学校では、年間指導計画は、主題配列表だけの学校がほとんどであった。その場合、多くの中学校では、毎月行われる学年会において翌月の道徳授業の内容が伝えられ、後日に道徳指導案としてビデオ視聴教材が提示されることが多かった。
こうした場当たり的な取り組みは、道徳教育を推進する上で計画性や発展性に欠ける問題がある。
年間指導計画は意図的、計画的、発展的に作成するものであり、指導者が恣意的に変更や修正をするべきものではない。
生徒の道徳性を育成する観点から考え、より大きな効果が期待できる場合でも、学年会による検討を経て道徳教育推進教師、そして校長の了解を必ず得た上で変更や修正を行うことが必要である。と学習指導要領には書かれている。
年間指導計画は、各学年において中学校の内容項目を全てにわたって取り上げることも書
かれている。
各学年1年間の道徳授業の合計は35時間である。
中学校における内容項目は22であるから、1時間の道徳授業で1つの内容項目を行うと、
1年間の道徳授業数35時間のうち、22時間を使いすべての内容項目を行うと、13時間が余
る計算となる。この13時間は当然、内容項目の重複となる。
この重複した内容項目のことを、一般的に重点的な指導と呼んでいる。
重点的な指導とする内容項目としては、各学校の実態を踏まえ教育的に必要とする内容項目や学校教育目標、道徳教育目標、学年目標等との関連を考えた上で決定されることが望ましい。複数の時間で扱う重点的な内容項目として、教育目標を達成するための取り組みである。
そうした工夫が年間指導計画を組む上で、道徳担当者に求められている。
「道徳科の指導」について
はじめに、学習指導要領道徳編に書かれている内容を確認する。
道徳教育の目標に基づき、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的
諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、人間としての生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。
この文章は、学習指導要領に示された道徳科の目標である。
箇条書きに整理すると、次のようになる。
〇道徳的諸価値についての理解を基に指導すること
〇自己の内面を見つめさせること
〇物事を広い視野から多面的・多角的に考えること
〇人間としての生き方についての考えを深めること
〇道徳授業を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てること
となる。
上記の特色を理解した上で、生徒と教師との温かい人間関係の基盤の上に、生徒相互がより良い生き方について語り合える学級の雰囲気の上で、道徳授業の効果が発揮される。
生徒一人一人が道徳授業における問題を、自分の問題として受け止められることが出来るような工夫や、生徒の興味関心を高められるような配慮も大切である。
また、新しい学習指導要領においては、問題解決的な学習や体験的な活動など、多様な指導方法の工夫が求められている。
生徒たちの実際の生活においても、複数の道徳的価値が対立し、時に葛藤が生じる場面や、複数の道徳的価値の中から、どの価値を優先するかの判断を迫られる場面もある。
こうした問題や課題に対して、多面的・多角的に考える力や、主体的に判断できる力、困難な場面においても、よりよく生きていくための資質や能力を養うことが必要であり、そのためには、問題解決的な学習が重要であると指導要領では指摘している。
こうした問題解決的な学習は、豊かな体験を通す中で、生徒の内面に根ざした道徳性を養うことに資するものである。
これらの体験活動を通して生徒が気付いた道徳的価値の意味や大切さについて、さらに深く考えさせる道徳授業の指導を通して、内面的な資質能力である道徳性を育てることができる。
こうした豊かな体験を通して得た考えを基に、議論を通し、生徒の心に響く多様な指導の工夫に努めることが新たな学習指導要領で求められている。
教師は生徒と共に考え、悩み、感動を共有していくという姿勢で授業に臨み、生徒が自ら課題に取り組み、考え、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことができるような配慮が必要である。
道徳教育を活性化するために、新たに各学校に道徳教育推進教師という役職が置かれたが、特に道徳授業の推進と校長の方針の下に、道徳教育推進教師を中心としたに学校内の指導体制の充実、道徳授業への校長や教頭の参加、他の教員との協力的指導、保護者や地域の人々の参加や協力など、多様な指導もそのための工夫例であり、さらなる工夫が道徳授業に求められている。
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