道徳教育論ー理論と実践-(18)
道徳科の評価について
横浜市立大学非常勤講師 鈴木 豊
特別な教科道徳編 第5章 道徳科の評価について
道徳科における評価の意義について
学習指導要領に道徳科の評価については、生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう務める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする。と書かれている。
道徳科の学習における教育評価には、生徒側における評価と教師側における評価の2種類がある。
生徒側における評価では、生徒自身が自らの成長を実感し意欲の向上につなげていく評価であること。
教師側における評価では、道徳科授業の指導改善・充実に取り組むための資料となる評価であること、としている。
教師側における評価においては、常に指導に生かされ、結果的に生徒の成長につながるものでなくてはならない。 ( ⇒ 指導と評価の一体化 = 評価するための評価活動では無く、指導に活かすための評価 )
道徳教育の目標である、「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うこと」という道徳科の特質を踏まえて、道徳科の評価に当たっては、
⇒ 道徳科の授業における児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を評価する。
ただし、道徳性については内面的資質を評価することは困難であることから評価しない、としている。
【評価の基本的態度について】
道徳科で養う道徳性は、生徒が将来いかに人間としてよりよく生きるか、いかに諸問題に適切に対応するかといった個人の問題に関わるものである。
このことから、中学校の段階でどれだけ道徳的価値を理解したか、などの規準を設定することはふさわしくない、としている。
道徳性の評価の基盤には、教師と生徒との人格的な触れ合いによる共感的な理解が存在することが重要となる。
そのうえで、生徒の成長を見守り、努力を認めたり、励ましたりすることによって、生徒が自らの成長を実感し、更に意欲的に取り組もうとするきっかけになるような評価を目指すことが求められている。
なお、道徳性は、極めて多様な生徒の人格全体に関わるものであることから、評価に当たっては、個人内の成長の過程を重視すべきである(=個人内評価)、としている。
したがって、道徳科で養う道徳性は、児童生徒が将来いかに人間としてよりよく生きるか、いかに諸問題に適切に対応するかといった個人の問題に関わるため、どれだけ道徳的価値を理解したか等、の基準を設定することは適切ではないとしている。
道徳科に関する評価の基本的な考え方としては、本来の学習評価の基本である、目標に対する達成の様子についての評価が求められる。
道徳科の目標は、「生徒の道徳的諸価値の理解を基に、自己をみつめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、人間としての生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲及び態度を育てること」である。
道徳性の諸様相である道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度のそれぞれについて分節し、学習状況を分析的に捉える観点別評価を通じて見取ろうとすることは、「生徒の人格そのものに働きかけ、道徳性を養うことを目標とする道徳科の評価としては妥当でない」、としている。。
児童生徒に行う評価は、児童生徒にとって、自らの成長を実感し意欲の向上につなげていくものであり、教師にとっての評価は、児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を、共感的な理解に立った中で、自らの指導を評価し、指導方法の改善に努めるために、指導の目標や計画、指導方法の改善・充実につなげる資料となるもの、としている。
「特別の教科 道徳」の評価について、
学習活動における生徒の具体的な取組状況を、一定のまとまりの中で、生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を適切に設定しつつ、学習活動全体を通して見取ることが求められるとして、
次のように整理している。
〇 数値による評価ではなく、記述式であること。
〇 個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価を行うこと。
〇 個々の児童生徒との比較による評価ではなく、児童生徒がいかに成長したかを積極的に 受け止めて認め、励ます個人内評価として行うこと。
〇 学習活動において児童生徒がより多面的・多角的な見方へと発展しているか、道徳的価値の理解を自分自 身との関わりの中で深めているかといった点を重視すること。
〇 道徳科の学習活動における児童生徒の具体的な取組状況を一定のまとまりの中で見取ること。
〇 調査書に記載せず、入学者選抜の合否判定に活用することのないようにする必要があること。
大くくりなまとまりを踏まえた評価については、個々の内容項目を短期間で見取るのではなく、授業を積み重ねていく中で、その子どもの特徴的な成長を見取るとしている。
時間的な大くくりという意味と、学習や内容項目の大くくりという2つの意味があり、
時間的な大くくり(縦断的評価)においては、学習状況を時間的に並べ、進歩の状況を認め、記述としては
「〇〇なりました。」
例文として
「本当の親切とは何か」を考えた学習では、何かをしてあげることや手伝うことが親切だと話していた○○さんでしたが、学習を重ねる中で、そっと見守ることも親切であると気付くことができました。
学習や内容項目の大くくり(横断的評価)においては、個人の目標に向けた学習状況ごとに横並びにして、学習したところをよさと認め、記述としては「〇〇でした。」
例文として
自分とは違う考え方に触れ、多面的・多角的に物事を考えるよさに気付いていました。教材「ロレンソの友達」では、「そんな風に考えもしなかったので、見方が広がった」と発表しました。
上記の記述例を示している。
児童生徒の道徳学習の見取り方、学習状況を把握する3つのポイントを上げている。
ポイント1:児童生徒が、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中でどう深めているかを見取る。
〇 読み物教材の登場人物を自分に置き換えて考え、自分なりに具体的にイメージして理解しようとしている。
(例文)大劇場へ行って夢をかなえたいという気持ちもあるけど男の子との約束を守らなければならない気
持ちが強いと思います。ぼくも手品師なら、男の子が喜ぶ笑顔を見たいです。(ワークシートより)
〇現在の自分自身を振り返り、自らの行動や考えを見直している。
〇道徳的な問題に対して自己の取り得る行動を他者と議論する中で、道徳的価値の理解を更に深めている。
〇道徳的価値の実現することの難しさを自分のこととして捉え、考えようとしている。
(例文)私は、みんなの考えに納得できません。大切な出番を奪われたのに、相手がちょっとがんばったくらいでは、簡単に許せないからです。(ワークシートより)
ポイント2:児童生徒が、一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているかを見取る。
〇道徳的価値に関わる問題に対する判断の根拠やそのときの心情を様々な視点から捉え考えようとしている。
〇自分とは違う立場や感じ方、考え方を理解しようとしている。
(例文)○○さんの考えはなるほどと思いました。2つの考えを比べたとき、どちらもあると思うけれど、ぼくは自分のことを反省したら、やっぱり許そうと思います。(ワークシートより)
〇複数の道徳的価値の対立が生じる場面において取り得る行動を多面的・多角的に考えようとしている。
ポイント3:学習状況を把握したら、計画的・意図的に記録しておく。
上記3つのポイントを示している。
「道徳科の授業評価」について
学習指導要領には、次のように書かれている。
「生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにすること。また、各教科等の目標の実現に向けた学習状況を把握する観点から、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら評価の場面や方法を工夫して、学習の過程や成果を評価し、指導の改善や学習意欲の向上を図り、資質・能力の育成に生かすようにすること。」とし、学習評価を指導の改善につなげること。道徳科においても、教師が自らの指導を振り返り、指導の改善に生かすことが大切であり、授業の評価を改善につなげる過程を一層重視する必要があるとしている。
教師自らの指導を評価し、その評価を授業の中で更なる指導に生かすことが、道徳性を養う指導の改善に繋がるものである。
明確な意図をもって指導の計画を立て、授業の中で予想される具体的な生徒の学習状況を想定し、授業の振り返りの観点を立てることが重要であるとして、道徳科の学習過程や指導方法に関する評価の観点を上げている。
ア 学習指導過程は、道徳科の特質を生かし、道徳的諸価値の理解を基に自己を見つめ、人 間としての生き方について考えを深められるよう適切に構成されていたか。また、指導の手立てはねらいに即した適切なものとなっていたか。
イ 発問は、生徒が広い視野から多面的・多角的に考えることができる問い、道徳的価値を自分のこととして捉えることができる問いなど、指導の意図に基づいて的確になされていたか。
ウ 生徒の発言を傾聴して受け止め、発問に対する生徒の発言などの反応を適切に指導に生かしていたか。
エ 自分自身との関わりで、物事を広い視野から多面的・多角的に考えさせるための、教材や教具の活用は適切であったか。
オ ねらいとする道徳的価値についての理解を深めるための指導方法は、生徒の実態や発達の段階にふさわしいものであったか。
カ 特に配慮を要する生徒に適切に対応していたか。
上記の評価の観点について、授業者自らが記憶や授業中のメモ、板書の写真、録音、録画などによって学習指導過程や指導方法を振り返ること、生徒が授業中の考えを記録したワークシートや道徳ノート等から授業評価を行うことも大切であるが、他方、他の教師による評価も重要としている。
道徳科の授業を公開し、参観した教師から指摘を受ける機会を得ること、その際にはあらかじめ重点とする評価項目を設けておく等、具体的なフィードバックが得られやすくする必要がある、としている。
道徳学習指導案に記載する評価においては、「本時のねらいとする道徳性が育てられたか」という、ねらいに対する指導評価であるが、具体的な評価項目も加えフィードバッグが他の教師等、参観者から得られやすい工夫も必要としている。
【授業ワークシート例】
道徳ノート 年 氏名( )
★主題名「法やきまりの意義」 内容項目 C-(10) 令和元年 月 日
本時の学習課題 「法やきまりについて考える」
(1) 「動物園には、なぜ入園時間のきまりや小学生以下の子どもは保護者同伴でなければならないというきまりがあるのだろう。」
(2) 「 元さんは、なぜ規則を破ってまでも、姉弟を入園させたのだろうか。」
(3) あなたが元さんだったら、幼い姉弟を入園させますか・させませんか?
理由も含めて道徳ノートに記入し、その後で4人グループを作り、4人全員の発表が終わった後で、どうするのが良かったのか、グループ内で議論してください。」
「 あなたの考え 」 入園させる・させない
( 理由 )
「 4人グループの考え 」 入園させる・させない
( 理由 )
(次にプリントで提示された6つの選択肢から、あなたの今の考え方に最も近いものを一つ選び、選んだ理由を書いてください。)
あなたが選んだ番号( )
( 理由 )
(振り返り)
◎ 授業で学習したことをもとに、あなたはこれからの生活の中で、「法やきまり」をどのように守っていこうと考えましたか。あなたの考えを書いてください。
〈 自己評価 〉
今日の授業によって、あなたは自分の考えを広げたり深めることができましたか。
下のA~Dの、当てはまる記号に○をつけ、自己評価してください。
A B C D
とてもできた 少しできた 少しできなかった まったくできなかった
(あなたが今日の授業で、良くできたこと、学んだこと、がんばったこと等について書いてください。)
〈 授業評価 〉
今回の授業によって、今日の学習課題を解決するための、自分の考えがもてましたか。
A B C D
とてももてた 少しもてた 少しもてなかった まったくもてなかった
(授業で、良かったこと、良くなかったことについて書いてください。)
【 6つの選択肢 】
「 あなたが元さんだったら、どうすることが、一番良かったと考えますか? 」
次の6つの選択肢の中から、今のあなたの考えに最も近いものを一つ選び、理由も含め
道徳ノートに書いてください。
① 姉弟に閉門時間10分前には必ず退場門まで来るよう約束させ、動物園に許可を仰ぐが、却下されたとしても、自己責任で入園させる。
② 入園終了時間を少し過ぎているが、閉園時間までに帰るように伝え、閉園時間までに退場門から出て家に帰ることを疑わず入園させる。
③ 幼い姉弟が、より楽しめるように見たいところを聞きながら、一緒に案内する。
④ 閉園時間に間に合うよう、退場門への最短ルートに沿って、一緒に案内する。
⑤ 動物園に置いているグッズ等をお誕生祝いの代わりにあげて、後日来るように伝え、入園はさせない。
⑥ 規則だから、入園させない。
教師用道徳科授業評価シート・評価項目例
(授業参観者から各項目の評価を○で回答して頂き、助言感想等記述後に授業評価用紙を回収する。)
① 学習指導過程は、道徳科の特質を生かし、道徳的諸価値の理解を基に自己を見つめ、人間としての生き方について考えを深められるよう適切に構成されていたか。また、指導の手立てはねらいに即した適切なものとなっていたか。
(良い 4 - 3 - 2 - 1 悪い)
② 発問は、生徒が広い視野から多面的・多角的に考えることができる問い、道徳的価値を自分のこととして捉えることができる問いなど、指導の意図に基づいて的確になされていたか。
( 4 - 3 - 2 - 1 )
③ 生徒の発言を傾聴して受け止め、発問に対する生徒の発言などの反応を適切に指導に生かしていたか。
( 4 - 3 - 2 - 1 )
④ 自分自身との関わりで、物事を広い視野から多面的・多角的に考えさせるための、教材や教具の活用は適切であったか。
( 4 - 3 - 2 - 1 )
⑤ ねらいとする道徳的価値についての理解を深めるための指導方法は、生徒の実態や発達の段階にふさわしいものであったか。
( 4 - 3 - 2 - 1 )
⑥ 授業のはじめに「学習課題」が示されたり、説明されたりしているか。
( 4 - 3 - 2 - 1 )
⑦ 生徒の主体的な活動や、生徒同士が議論し考えを深め合う活動があるか。
( 4 - 3 - 2 - 1 )
⑧ 授業の終わりに、学習課題をまとめ自分に振り返りこれからの生き方を考える機会があるか。
( 4 - 3 - 2 - 1)
⑨ 特に配慮を要する生徒に適切に対応していたか。
( 4 - 3 - 2 - 1 )
【 自分に取り入れ参考にしたいことや、改善案感想等をご記入ください。 】
【 通知表への道徳科記述評価例 】
〇道徳科「命の大切さについて考える」の授業では、命はかけがいのないものであることに気付きました。また、友達の発言を聞き、「命のつながり」についても考えを広げることができました。
〇正直・明朗について考える道徳科の授業の最後に、自分が教材の登場人物と似た経験をした時、勇気をもって謝ったことを発表し、みんなに拍手をされていました。
〇家族愛について考える学習では、母親の思いやりに気付いた主人公の気持ちを考え、家族の愛情に感謝し、自分のことは自分でしようとする考えを発表できました。
文科省では上記記載例をあげ、児童生徒の学習状況を記録として残し、記録をもとに記述評価を行うこと、教材名等を入れた具体的な記述や児童生徒の発言や考えを深めようとしている姿に着目し、発言や記述ではない形で表出する児童生徒の姿に着目した記述評価なども重要としている。
学習指導要録の記入評価については、
「総合所見及び指導上参考となる諸事項」の欄に、道徳科であることがわかるように記載してもよいとして、
〇 生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにすること。
〇 他者との比較ではなく生徒一人一人のもつよい点や可能性などの多様な側面、進歩の様子などを把握し年間や学期にわたって生徒がどれだけ成長したかという視点を大切にすること、としている。
一方的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか、道徳的価値の理解を自分自身との関わりのなかで深めているかといった、大くくりな視点で、児童生徒の発言やノートへの記述、質問紙等から学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に見取り、とくに顕著な状況を記述する。
通年での成長を見通し、最終の学期だけの評価をするのではなく、年間にわたって、児童生徒の道徳科における学習状況や、内面的な成長がどのように見られたのかを記述し、「観点別評価のように、ある態度についてだけを取り出して評価したり、特定の内容項目だけについて評価したりするのではなく、活動全体を通して、子どもの変化を見取り、大くくりで捉えるが重要としている。
通知表の記述において、抽象的記述では保護者に分かりにくくなるため具体的な表記が望ましいとし、次のような記述例も示している。
〇 話合いを通して、ねらいとする道徳的価値について自分自身の課題を見つめ、自分ももっとよくなりたいという思いや願いを言葉で表現しました。道徳科の学習を通して、普段の自分の行動を見つめ直し、肯定的に自 分のよさをとらえることができるようになっています。
〇思ったことを実際に行動に移すことの難しさについて、いつも自分の体験と重ねて考え、それを克服しようと努力することの大切さについて発表していました。
〇道徳科の学習では、主体的に自分の問題として話し合うことができ、自分と友だちの考え方や感じ方の違いに気付き、自分の価値観を広げたり深めたりしていました。
【評価をするための方法】
ポートフォリオ評価: 1年間書きためた道徳や感想文、作文、ワークシートなどの蓄積物から、児童生徒一人一人の学習状況や道徳の成長の様子を見取る。
パフォーマンス評価: 一定の課題を設定し、学習の結果、その課題解決に対してどのような状況に至ったかを評価する。
エピソード評価: 児童生徒の行動や発言の様子を日常的に見取った特記事項を教師のノートにエピソードとし
て記録し蓄積した結果を分析して評価する。
チームによる評価: 道徳科の評価は、担任が行うが、信頼性を高めるには、複数の人で見取っていくことも必要になる。児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子をより多面的・多角的に把握することができ、評価の改善の観点からも有効である。
【評価の具体的な方法】
〇アンケートや振り返り: 一定のテーマで、児童生徒の意識調査や、考え方の傾向の分析をするために、選択
式回答と記述式回答の両方を備えたアンケートを機に応じて行う。
〇聞き取りやインタビュー: 発言に消極的な児童生徒、自分の思いや考えを適切に表現できない児童生徒に有効である。授業後にタイムリーに行うことが大切である。
〇ワークシート: 道徳科の授業において、教材の内容や登場人物に自我関与させる目的での利用を中心とし、年間のポートフォリオとして、「道徳ノート」とともに活用したい。
〇道徳ノート: 児童生徒にとって、一年間の自身の成長の軌跡が見える。年間を通して利用できるものである。
自己評価の欄を設け、授業に対する印象や自分自身の取り組み状況(意欲の側面)が記録として残るようにする。
授業を通して児童生徒が考えたこと学んだこと、心に残ったことなどを記述する。
友達の発言から影響を受けたことや自分の考えが変わったこと、新しく発見したことなどに関する内容を記述させる。
家庭に持ち帰り話し合ったことなどを書いてもらうなど、相互評価としても有効に活用できる。
〇道徳ファイル: 道徳科のワークシートや事前・事後学習、各教科の道徳教育に関する学習をファイルに蓄積することで、児童生徒が道徳的な見方や考え方の学びを継続的に見取ることができる。
【その他の評価】
〇児童生徒の自己評価: 教師の評価との違いは、授業改善に生かすことができる。
継続的に取り組むことで、子どもの評価力が高まる。
〇児童生徒の相互評価: 自分とは違う見方や考え方と触れる機会となるが、教師による子ども同士の信頼関係への配慮が必要である。
生徒が行う自己評価や相互評価については、これら自体は生徒の学習活動であり教師が行う評価活動でないが、生徒が自身のよい点や可能性に気付くことを通じ、主体的に学ぶ意欲を高めることなど、学習の在り方を改善していくことに役立つものであり、これらを効果的に活用し学習活動を深めていくことも重要であるとしている。
〇教師による評価: 評価の妥当性や信頼性を確保するために、チームで評価し、複数で個々の児童生徒の成長を見取ることも大切である。評価に対して共通認識を持つ機会となり、評価活動を学校として組織的・計画的に行うことにつながる。また、チームによる授業づくりは、教師の授業力を向上させるだけでなく、評価力を高めることにつながる。
【組織的、計画的な評価の推進について】
道徳科の評価を推進するに当たっては、学習評価の妥当性、信頼性を担保することが重要である。
そのためには、評価は個々の教師が個人として行うのではなく、学校として組織的・計画的に行われることが重要である。
例えば、学年ごとに評価のために集める資料や評価方法等を明確にしておくことや、評価結果について教師間で検討し評価の視点などについて共通理解を図ること、評価に関する実践事例を累積し共有することなどが重要であり、これらについて、校長及び道徳教育推進教師のリーダーシップの下に学校として組織的・計画的に取り組むことが必要である。
道徳部会や学年会あるいは校内研修会等で、道徳科の指導記録を分析し検討するなどして指導の改善に生かすとともに日常的に授業を交流し合い、全教師の共通理解の下に評価を行うことが大切である、としている。
道徳教育の評価に関する今後の課題について
文科省は次のように、今後の課題について指摘している。
【これまでの主な指摘事項】
○ 数値による評価を行うことは不適切であり、この考え方は引き続き維持すべき。児童生徒の内面そのものを評価の対象としたり、入学者選抜等の他の判断の基礎としたりすることについても厳に慎むべき。
○ 現行の目標は、道徳的実践力を育成するという方向性だけを打ち出した目標であって、行動目標になっていないために、客観的な信頼性のある評価がしにくい。
○ 具体的に何を評価するのか、例えば、関心・意欲・態度のような観点から絶対評価をするのか、道徳的心情、判断力、実践意欲、態度を評価するのか、内容項目に対応させた評価にするのか、道徳的価値の自覚を深めるといったところで評価していくのか、結果を重視する見方から動機を重視する見方、主観的な見方から客観的な見方への移行などを評価するのかをある程度見極めなければいけない。
○ 認知レベルの部分での評価はできるのではないか。子どもたち自身が今日の時間の中で自分を振り返る、あるいは自分を見つめることができたかという評価は一定程度可能ではないか。
○ パフォーマンス評価やポートフォリオ評価など多様な評価方法があるが、道徳性を総合的に評価していくためにはどうすればいいのか検討する必要がある。
○ 学習指導要領や解説に評価に関わる内容を具体的な評価方法も含めて記載する必要がある。道徳性の評価、道徳の指導計画の評価、道徳の時間の指導に関する評価について、具体的な事例も含めて、盛り込んでいくべき。児童生徒の自己評価は、自己の成長が感じられる個人内評価でもある。また、教師にとっても、学習指導への評価がなされるものである。
○ 指導要録の中に、例えば、児童生徒の学習の様子を記録し、その意欲や可能性をより引き出したり、励まし勇気付けたりするような記述式の欄を設けることや、指導要録の「行動の記録」の欄をより効果的に活用する方策など、道徳教育の目標や内容を踏まえながら、その特性を生かした多様な評価の方法について検討すべき。
【改善に向けての主な論点(案)】
(1) 評価の基本的在り方について
○ 道徳教育の評価と「特別の教科 道徳」(仮称)の評価との関係をどのように考え、どのように示すことが考えられるか。
(2) 評価の観点について
○ 道徳性の評価について、例えば、記述式で評価することが考えられるか。また、評価の観点として、例えば、道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度などを観点とすることが考えられるか。さらには、思考・判断・表現などの観点からも評価が考えられるか。
(3) 評価の方法について
○ 効果的な評価の方法として、どのようなものが考えられるか。
・ 児童生徒が自己の心の成長を実感できるようにするため、発達段階を踏まえた児童生徒の自己評価を積極的に取り入れることについて、どう考えるか。
・ 討議や討論などの機会に、児童生徒同士の相互評価を取り入れるなど多様な評価方法を取り入れていくことについて、どう考えるか。
(4) 児童生徒指導要録への記録について
○ 指導要録(参考様式)に「特別の教科 道徳」(仮称)の欄を設けることや現在の「行動の記録」の評価項目及びその趣旨などについて、具体的にどのような改善が考えられるか。
(5) 評価に基づく指導方法の改善について
○ 児童生徒の道徳性を把握し、その結果を踏まえて指導の計画や方法、評価の方法などを改善していくための方策としてどのようなことが考えられるか。
(6) その他
○ 組織的に効果的・効率的な学習評価を推進し、教師の力量の向上や負担の軽減を図るために、どのような取組が考えられるか。
上記内容が示すように、特別な教科 道徳科が始まったが「評価」については、多くの問題点や改善が指摘されている。
教育評価の問題は、指導法の問題と重複する事柄でもある。したがって、今後、指導方法の改善・確立も含め、道徳教育および特別の教科 道徳科の評価が、妥当性・客観性も含め改善され、確立されなければならない。
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