道徳教育論-理論と実践-(16)

6、中学校学習指導要領(平成29年告示) 特別な教科 道徳

    道徳科学習指導の展開(道徳学習指導案)について

                         浜市立大学非常勤講師 鈴木 豊

道徳科学習指導の展開(道徳学習指導案)の内容について、学習指導要領道徳編に書かれている内容を、はじめに確認する。

道徳科の特質を生かした学習指導の展開

(1)道徳科の学習指導案

 ア 道徳科の学習指導案の内容

    道徳科の学習指導案は、教師が年間指導計画に位置付けられた主題を指導

   するに当たって、生徒や学級の実態に即して、教師自身の創意工夫を生かし

   て作成する具体的な指導計画案のことである。これはねらいを達成するため

   に、生徒がどのように学んでいくのかを十分に考慮して、何を、どのような

   順序で、どのような方法で指導し、評価し、さらに、主題に関連する本時以

   外の指導にどのように生かすのかなど、学習指導の構想を一定の形式に表現

   したものである。

    学習指導案は、教師の指導の意図や構想が適切に表現されることが好まし

   く、各教師の創意工夫が期待される。したがって、その形式に特に決まった

   規準はないが、一般的な内容としては次のようなものが考えられる。

(ア)主題名

   原則として年間指導計画における主題名を記述する。

(イ)ねらいと教材

   年間指導計画を踏まえてねらいを記述するとともに教材名を記述する。

(ウ)主題設定の理由

   年間指導計画における主題構成の背景などを再確認するとともに、

1、ねらいや指導内容についての教師の捉え方

2、それに関連する生徒のこれまでの学習状況や実態と教師の生徒観

3、使用する教材の特質や取り上げた意図及び生徒の実態と関わらせた教材を生かす具体的な活用方法などを記述する。

   記述に当たっては、生徒の肯定的な面やそれを更に伸ばしていこうとする観点から

の積極的な捉え方を心掛けるようにする。また、抽象的な捉え方をするのではなく、生徒の学習場面を予想したり、発達の段階や指導の流れを踏まえたりしながら、より具体的で積極的な教材の生かし方を記述するようにする。

(エ)学習指導過程

   ねらいに含まれる道徳的価値について、生徒が道徳的価値についての理解を基に道徳的価値や人間としての生き方についての自覚を深めることを目指し、教材や生徒の実態などに応じて、教師がどのような指導を展開していくか、その手順を示すものである。一般的には学習指導過程を、導入、展開、終末の各段階に区分し、生徒の学習活動、主な発問と生徒の予想される反応、指導上の留意点などで構成されることが多い。

 (オ)その他

   例えば、他の教育活動などとの関連、評価の観点、教材分析、板書計画、校長や教頭などの参加、他の教師との協力的な指導、保護者や地域の人々の参加や協力など、授業が円滑に進められるよう必要な事柄を記述する。

   なお、内容を重点的に取り上げたり複数時間にわたって関連をもたせて指導したりする場合は、全体的な指導の構想と本時の位置付けについて記述することが望まれる。

上記内容が、学習指導要領に記載されている道徳指導案の形式と内容である。

具体的な道徳学習指導案参の考資料を参照されたい。

学校現場の道徳指導案としては、以下のような形式が一般的ある。

「道徳指導案」

作成年月日

所属

授業者名

(指導教官名)

実施日時・時間数

実施学年・組

1. 主題名・内容項目

2. 教材名(出典)

3.主題設定の理由

(1)道徳内容について

(2)生徒の実態と指導の方向について

(3)資料の特性について

4.本時のねらい

5.本時の指導過程

6.評価

以上のような形式が一般的に見受けられる。

道徳学習指導案の作成手順については、それぞれの状況に応じて異なるが、おおむね次のような作成手順が一般的である。

いずれの中学校にも、年間指導計画の主題配列表は最低限作成されている。

主題配列表には、年間にわたる各月各週に実施する主題が表記されている。

年間指導計画に示されている主題には、「ねらい」と「資料」「内容項目」が書かれている。

各主題をもとに、指導過程の流れや発問の設定と吟味が大切である。

指導者は、クラスの実態を踏まえて年間計画に示されている主題設定の理由から、発問をクラスの実態に照らし合わせて考える。

特に、授業のねらいに迫るための直接的な発問である、中心発問をしっかりと吟味することが大切である。

導入時での学習課題の提示と、展開後段における学習課題に対する課題解決のための各自の考えを持たせることは、問題解決的な学習である。

本時への興味関心を高めるための導入時の工夫では、生徒の生活経験と本時のねらいとする道徳的価値に関わる一般的な発問等を行うことも考えられる。

展開では導入時の生活上の問題から、資料における問題へと生徒の思考を移し、資料の内容からの発問と発問同士のつながり、中心発問の吟味、中心発問を踏まえて、各自が学習課題への自分の解決方法や考えをもち、終末において再び、本時で考えたことを自身の問題としてふり返り、自分の将来への、よりよい生き方在り方を考えさせることが出来るよう、指導案を検討することが必要である。

教師の原体験から道徳指導案を作成する場合には、おおむね次のようなことが考えられる。

① 主題を設定する

  主題(ねらいと資料)を設定する。

(ア)「ねらい」の設定

学習指導要領に示されている、中学校22の内容項目一覧表の「徳目」を手掛かりにし

て、自身の「原体験」と「徳目」の関連を考え、生徒と共に考え深めたい道徳的価値として、授業の「徳目」を決める。同時に内容項目を決定する。

決定した「内容項目」に示されている、学習指導要領道徳編に書かれている「(1)内容

項目の概要 (2)指導の要点」に書かれている内容から、内容項目の文章中に含まれて

いる複数の道徳的価値(徳目)から、本時で深めたい道徳的価値をひとつ(ひつ

つの徳目)に絞り込み、道徳性のうち授業で育てたい3つの諸様相である、道徳的判

断力・心情・道徳的意欲態度のうちの1つを決定した上で、内容項目の文章を基にし  ながら、内容項目の文章を簡潔明瞭な短い文章で本時のねらいを設定する。

本時のねらいは、簡潔に「何を育てるのか」がはっきりわかる文章が望ましい。

ねらいの中に、複数の道徳的価値(徳目)が含まれていたり、抽象的な表現のねらいは、そのまま授業内容も漠然とした、何を問題とする授業なのか等、考える視点のぼやけた、授業の意図がわからない授業となる。

      ねらいは、生徒の実態に即して、具体的で内容項目の文章を焦点化し簡潔明瞭な文章とする。ねらいに対する授業での達成度や授業改善の課題等が明確化できることが大切である。

(具体例)内容項目A-(4)「より高い目標を設定し、その達成を目指し、希望と勇気をも

ち、困難や失敗を乗り越えて着実にやり遂げること。」

内容項目A-(4)「より高い目標や向上心をもって、最後までやり遂げる、

強い意欲と態度を育てる」

(イ)「資料」の設定

  「ねらい」と「資料」の設定において、「どちらを先に決めるのか」という点においては、一体化した面があり、優先順位はない。

道徳時間で使いたい資料が初めにあり、資料を通して「ねらい」を設定する場合もある。

「原体験」を基に自作資料を作成し、次に「ねらい」を設定する場合もある。

また、ねらいを達成するための既成の道徳資料を探し、資料決定する場合や、一部文章をリライトする場合もある。その場合には著作権とういうことも考慮する必要がある。

その他、道徳資料以外の文章から、資料を選定する場合もある。その場合には、道徳時間に用いる資料の長さは、おおむね範読時間にして10~15分程度以内の時間で読める長さの資料を選定する。理由は、その後の展開と終末時間を十分に確保する必要からである。

資料は、資料に含まれる道徳的を、生徒による道徳的価値の理解をもとに、さらに考えを深

めていく上での、手がかりとして、道徳授業において大きな意味をもっている。

ねらいとする道徳的価値について、直接的に考え議論するための媒体でもある。

資料が備えるべき要件としては、

・ ねらいを達成するのにふさわしい資料(ねらいとする道徳的価値を授業で深めることができる資料)であること、

・ 生徒の興味や発達に応じた資料であること、

・ 生徒から多様な考えを引き出し、深く考えさせる資料であること、

・ 特定の価値観に偏しない中正な資料であること、

・ 読み物教材や視聴覚教材などの特質を生かした資料であること等が求められる。

   

これらの要件を踏まえつつ、郷土に素材を求めた資料や人物の生き方在り方に焦点を当てた教材等、多様な資料の開発に努めることが求められている。

(ウ) 主題名を決める

主題名とは、道徳の時間の指導のまとまりを示す主題に付ける名称である。

原則として年間指導計画に書かれている主題名を記述する。

生徒に提示する際に、主題名が生徒にある種の先入観を与えたり、思考を規制したりする

おそれがあれば、資料名で示すこともある。

主題名に、徳目をそのまま用いるケースもあるが、生徒に授業の内容を認知させて

しまう側面があるため、道徳授業の内容が想像しにくい名称をつけることが多い。

      主題の構成にあたっては、主題名・時期・時間数・設定の理由・ねらい・展開・留意事項・教

材(資料)といったものを考慮し、設定する。

   ウ 主題設定の理由

     主題をどのような理由でとりあげたのかを、生徒の実態を踏まえて、指導する理由や指導

内容についての、指導者の基本的な考え方、生徒の道徳性向上へ向けた教師の考えや

願い、指導の方向や資料を取り上げた理由、活用の方法などを明確に示す部分である。

3つの観点から、生徒の肯定的な面や更に伸ばしていこうとする方法から構成する。

     次の3つの観点について記述する。

① ねらいと指導導内容について (ねらいや指導内容についての教師の捉え方)

②  生徒の実態と指導の方向について (ねらいに関連する生徒の道徳性の状況や指導                             の方向性と教師の生徒観について)

③ 教材の特質と活用方法について (使用する教材の特質や取り上げた意図、生徒の                       実態と関わらせ、教材を生かす具体的な活用方法                      などを、学習場面や指導の流れを踏まえながら具                      体的に記述する)

  エ 指導過程

    ねらいとする資料に含まれる道徳的価値についての、生徒の理解を基に、自己を

見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的な考え方、人間としての生き方につ

いての考えを深めさせるため、資料を通して生徒の道徳的な実態に応じ、教師が

どのような指導を展開していくか、その手順を示すものである。

一般的には、導入、展開、終末の3段階に区分し、各段階毎に教師の主な発問、生徒の予想される反応、指導上の留意点などで構成される。

問題解決型の道徳授業においては、導入時に本時の学習課題を生徒に提示し、授

業を通して生徒が学習課題に対する自分の解決方法や考えをもち、将来自分がよりよく生きるための考え方や資質を育てるための道徳授業を構想する。

   (導入)

    授業の始めに提示する「学習課題」は、生徒が本時の授業内容を把握するための「

めあて」でもあり、生徒に本時で考えるテーマを示すものである。

    導入においては、本時のねらいとする道徳的価値と関わる生徒の日常的生活上で

の問題等を取り上げ、発問を行うなど、本時の学習への興味関心を高められるよ

うに工夫する。

   (展開)

    導入における生徒の日常的生活も問題やそれにかかわる学習課題から、本時の授

業のねらいを踏まえ、生徒の生活体験からの道徳的問題から、資料における道徳

的問題に対して、生徒が主体的に資料の登場人物の行為や考え方を、自分に置き

換えて考え、自己の考えを深めることを通して、ねらいとする道徳的価値に関わ

る理解や考え方を深め、議論を通して問題を広い視野から多面的・多角的な考え

方や、人間としての生き方についての考えを深め、各生徒の道徳性に関わる諸様

相のうち道徳的判断力や道徳的心情、道徳的意欲や態度を育てる段階である。

中心発問は、ねらいとする道徳的価値に関わる問題について、直接的に迫るため

の発問である。

中心発問を生徒自身が自分の問題として、真剣に受け止め、深く考え、自分だっ

らどうするか、自己の考えをもたせることが、授業のねらいとする道徳的価値に

関わる自己の考え方を広げ、深める上で大切である。

授業の成否を左右する重要なポイントとなる。

    選択肢法による道徳授業では、中心発問において選択肢を用いることにより、学

級の生徒の考えでは難しい考え方を含め、多様な考え方を理解させている。

その上で、自分の考えを見つめ、自身の考えをもたせることを意図としている。

    

   (終末)

    資料における道徳的問題から離れ、再び生徒自身の生活に視点を戻し、ねらいと

する学習課題に対する自己の考えを見つめ振り返り、本時の学習を基に自身の学

習課題に対する解決策や自分の考えをまとめ、もつ段階である。

展開において、資料を通して多様な考えに照らし、自身のこれまでの道徳的価値

に関わる行為や考え方を広げ、将来に対するより良い自身の在り方に対する意欲

態度をもたせる段階である。

    終末において、教師が自身の原体験に基づいた説話を話したり、生徒のふりかえ

りからのこれからの生活における、より良い在り方等の発表をするなど、本時で

深めた道徳的価値のよさを、皆で共有する等、授業における感動や余韻を残す形

で授業を終わらせたい。

道徳ノートやワークシートの作成と活用について

 道徳ノートやワークシートを道徳授業で使用する理由には、次のような点がある。

① 生徒が自分の考えを整理し、再認識し、まとめる上で手助けとなる。

② 自分自身の考えを記録する。

③ 他者の考え、多様な考え方を記録し、理解することができる。

④ 生徒の考え、思いを教師や保護者が閲覧することで理解できる。

⑤ 生徒の道徳性に関わる成長の航跡となる。

⑥ 生徒一人一人のもつ、良さや進歩の様子、成長の記録となる。

⑦ 教師が生徒の良さや道徳性の高まりを評価する材料となる。

⑧ 教師の授業評価における資料となる。

道徳科の評価において、学習指導要領には、次のように書かれている。

〇 生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感

  できるようにすること。

〇 他者との比較ではなく、生徒一人一人のもつよい点や可能性などの多様な側面、進歩

の様子などを把握し、年間や学期にわたって生徒がどれだけ成長したかという視点を

大切にすること。

〇 生徒のよさを褒め、伸ばす指導であること。

上記の観点からの評価が、新しい学習指導要領で求められている。

道徳授業においては、「道徳ノートやワークシート」等を作成し、授業に用いることは、生徒自身が自身の考えを整理し振り返り、自身の考えをまとめ記録する目的がある。

教師側でも、生徒の道徳性の成長を看取り評価したり、教師の授業評価や授業改善等を図る上で欠かせない資料である。

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